ざあざあ




雨が頬を打つ


まるで頑是無い幼子の涙のよう


留まる事を知らぬかのように


只、流れ流れて




胸の中はまるで空洞


そのくせ失くしてしまったのだ、と判らせるには十分で…



― 違う



失くしてしまったのではない



― 手前勝手に



切り離しただけだ



彼の人の為と、彼の人に類が及ばぬ様にと


そう云いながら、彼の人を失う事が怖かっただけ


何よりも…己よりずっと、彼の人の方が心得ていた



境を見失っていたのは他ならぬ、己自身



怖くなった


彼の人を、あの陽だまりを失うことが


雨で体温を奪われるが如く


体の中の全ての血液が冷えていくような、そんな恐怖



― 手前勝手にも程があらァ



自嘲が口元を飾る


あんなお膳立てをしたのは他ならぬ己だ


あの切り離し方をすることで、己はこう願ったのだ


昼の世界で生きて欲しいと



そして――



この別れ方で彼の人の心に己が残れば好いと


己を忘れられぬように、したかっただけ


失いたくなかった 忘れて欲しくなかった



昼に生きてくれと思うくせに、夜を忘れるな、など



― 往生際の悪ィ



口から低い笑い声が少しだけ漏れた



頬を伝う雨が、熱い



天を仰いだ



― 先生ェ… 百介さん



名前を思い浮かべる資格すらも、もう無いのは判っている



― 百介さん



それでも、繰り返す



もう二度と、戻らないのに



もう二度と、逢うことは叶わぬのに









いずれ雨は止むだろう











でもこの胸の雨はきっと、止まない












退廃的100のお題
026:止まない雨
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生きるのにとても不器用
思いやることも、とても不器用