青い 空

赤い 花

黒い スーツ

白い シャツ





色が 鮮やかに 視界を奪う












褪 せ た 現 実   鮮 明 な 現 在












その人は手を広げ、仰向けになって倒れていた

顔がとても穏やかで、まるでそうして眠っているようにも見えて

ただ、白いシャツには赤い広がり

その背の下にも赤い広がり

赤い広がりのその量と、やや青白くなった顔

それがただ眠っているわけではないと、示していて

彼の周りに散る血だまりと同じ色の花弁

まるで何かの絵画のように異様なほど美しく、現実ではないみたいに





嗚呼





きっとこの人はこのままずっと眠り続けるんだ





不思議と、涙は出なかった

本当に、本当にその顔は安らかで

幸せそうにも見えて



少女には彼がこの日を待っているような気がしてならなかったから



空を見上げる


こんな日なのに


青く青く、吸い込まれそうなくらい美しくて



― …ムカツクくらいだよ




彼の顔が酷く穏やかだから涙も出なくて

せめて雨が降っていてくれたら

少しくらいは泣けたかもしれない



それでも世界は少しだって変わらない

何一つ変わらない

己にとって、こんなに大きな喪失なのに



― ホントだね



いつか彼の言っていたことを思い出す






     人は 小さなものでしか ないんだ






ゆっくりと近づく

すぐ傍に屈んで、ゆっくりと自分のものよりも大きな掌に手を伸ばす

指が触れた



― 冷たい



握り締めても、戻ってこない熱



胸は痛いのに 涙が出ない



手を握り締めたまま、空を仰いだ

それでも空は青くて

太陽は眩しい

ただ今は



太陽が引き摺り下ろせればいいのにと

眠りに相応しい、夜が来ればいいのにと

そんなことを考えて




― ムカツクよ




変わらずに照り続ける太陽

人の死を悼むことも知らず、無邪気に照り続けて

疲れた、と地平線へ沈み

夜へと引き継ぐその直前まで、照り続け



そして沈んだ太陽は休息を取って








夜を侵食して、再び昇るから









明日もきっと、目が眩むほど晴れるんだ











この安らかな顔が、無かったかのように













退廃的100のお題
039:永遠の寝顔
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人なんて、本当にちっぽけだ