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手離せないのは想い出だけだと、そう気付いたのは、もう随分と前。

泣き出したいという感覚は、当の昔に磨耗して、使い物にはならないだろう。

僕の心は、すっかり色んなことで擦られては、厚くなってしまった。

想い出なんてものは、いつだって甘くて、ベタついて、重い。

そして、記憶なんてものは、思いだす度、改竄される。

キレイにそのまま残しておきたくて、僕は思い出すのを大分前に止めた。

ずぶずぶと、底なし沼のような欲望は、いつだって正直だ。



――充満する。



それはまるで夢のような、愚かな願望。



 胸の中に手を差し入れれば、染まる掌。

 その色に、眩暈を覚えて、僕は笑う。

 荒廃の、甘い香りがする。



世界はいつだってあやふやで、存在していないもののように脆く、不確かだ。

所詮世界は、己の中にしか存在せずと、もう一人の僕が言う。

目を閉じれば其処には何が広がっているのか、想像も及ばぬ。

きっとこのまま生きていけば、擦り切れては厚くなっていく。

僕は、僕という殻を、丸ごと飲み込むことができるようになるのだろう。

この染まる掌を無視して、眩暈に気付かない振りをして。

己を騙して、宥めて、夢を見せて。





そしていつか、刹那の終わりに、虚構の世界の美しさを見るのだ。






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退廃的100のお題
050.囲われた空