o w n w o r l d 手離せないのは想い出だけだと、そう気付いたのは、もう随分と前。 泣き出したいという感覚は、当の昔に磨耗して、使い物にはならないだろう。 僕の心は、すっかり色んなことで擦られては、厚くなってしまった。 想い出なんてものは、いつだって甘くて、ベタついて、重い。 そして、記憶なんてものは、思いだす度、改竄される。 キレイにそのまま残しておきたくて、僕は思い出すのを大分前に止めた。 ずぶずぶと、底なし沼のような欲望は、いつだって正直だ。 ――充満する。 それはまるで夢のような、愚かな願望。 胸の中に手を差し入れれば、染まる掌。 その色に、眩暈を覚えて、僕は笑う。 荒廃の、甘い香りがする。 世界はいつだってあやふやで、存在していないもののように脆く、不確かだ。 所詮世界は、己の中にしか存在せずと、もう一人の僕が言う。 目を閉じれば其処には何が広がっているのか、想像も及ばぬ。 きっとこのまま生きていけば、擦り切れては厚くなっていく。 僕は、僕という殻を、丸ごと飲み込むことができるようになるのだろう。 この染まる掌を無視して、眩暈に気付かない振りをして。 己を騙して、宥めて、夢を見せて。 そしていつか、刹那の終わりに、虚構の世界の美しさを見るのだ。 |
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