S c o r t i n g


 吐き出したくなる灼熱の塊を、ただひたすらに押し殺していたんだ。
 檻の中で、私という小さなものはより小さく丸まり、暗闇の先をねめつけている。
 鉄格子にしがみついて叫びだしたい気持ちを、固く縛った。
 真っ暗な目の前は見えず、誰の声も聞こえない。
 嵌められた足枷は、太く冷たい。手枷は鈍く光って、私を嘲笑う。
 お前はここから出ることは出来ないのだよ、と。
 此れを私に科した者は、私の中にあるものを知っていたのだ。
 ただひたすらに恐れたのだ。私を。

(この檻を壊せ!俺を出せ!)

 もう一人の私が、私の内側を叩きながら、がなっている。

(うるさいよ)
 小さく私は吐き捨てる。もう一人の私へ。
 もうすぐ翼が生えそうなんだ。それまで待ってよ。
 そういえば彼は大人しくなる。きっとしぶしぶ、なのだろうけど。
 背中の翼が完全に開いたら、私は生まれ変わるのだ。
 この灼熱は翼へ変わって、全て焼き尽くすことが出来るようになる。
 手枷だって、足枷だって、一瞬で燃やして。
 そうしたらこの檻を溶かして、外の世界に出る。
 裏切るのだ。この檻に捕らわれたままだろうという、神の希望を、願いを。
 なんて快感だろうか。
 ああ、なんて甘美な響き。
 恐れて封印していたものに、足元をすくわれる恐怖を味わったら良い。
 私はそれを思って、残酷に笑う。
 暗闇に染まってしまった体だから、翼は漆黒かもしれない。
 それとも何でも燃やしてしまうような緋色?
 どちらになっても、この世に背く予定の私たちには好く似合いの色だ。
 ここを飛び出したら、まず何をしようか。

(喉が渇いてるよ、俺は)

 もう一人の私が、何かを唆すような声で言った。私は、奥底の意味に気付く。
 ああそれならまず、神の血でも飲み干しに行こうか?
 二人で本能のままに、喉の渇きを潤すんだ。真紅の甘い鉄の味を。
 行こうか。最も許されない、罪を犯しに。
 でも奴も、本当はそのときを待っているはずだ。
 縋られるだけの、祈りを掛けられるだけの自分にうんざりしてることくらい、お見通しだ。

(助けてやろうじゃないか。そんなつまらない世界から)

 もう一人の私は哄う。モノは言い方だと私も笑う。
 そうさ、白とはかけ離れた色の翼で。空を燃やしながら。

 世界の終わりを、造るために。

(世界の始まりを、創るために)




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退廃的100のお題
074:交錯