寂寥の心



 刹那に見えたのは きっと愛しいなどと思った心

 もうすぐ壊れて動かなくなる 掌の上

 首筋に絡みつくのは ひどく冷えた冬の風

 涙を流す暇も無く いつもが乾涸びて行く

 何か得られたものなどあったのか

 その問いさえ 空気に溶けた



 嗚呼、忘れてしまうほどに

 傷なんてものは開ききってしまって

 零れ落ちる 何もかもは

 この瞳に掠りもせず 昔日へと

 一滴の今日すら 此処には残らない



 黄昏に漂ったのは きっと切なさを含んだ夢

 もう見ることもできない 幼い記憶

 足元に忍び寄るのは ひどく凍えた宵闇

 振り返る間も無く 今日が侵蝕される

 いよいよ深く湧いてくるのは何

 その問いはもう 届く距離



 嗚呼、何処かで鳴っている

 去り往く今は流れきってしまって

 沈んでいく 手離したのは

 この頬に跳ね返った 淡い色

 一片の想いすら 何処かに消えた







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退廃的100の御題
088.喪失