家に帰る途中にコンビニに行った。


何か、思ったより買っちゃったよ。


オレのが少ない?(あれー?








         







自分用のコーヒーをホットのところから出そうと思ったら、あいつの好きな甘いミルクティーも目に付いた。

オレはあんま甘いもの食べない(意外って言われる)のに、あいつが好きだって言ってたチョコレートが目の前にあって。ついつい手にとっちゃって。

レジ待ちしてたら、りんごののどあめに目が行った。


…そーいえば、コホコホやってたなあ。


りんご好きだよなあ。


とか思って買っちゃった。


コンビニを出ると、アホみたいに冷たい風が顔に当たる。
口元を、もこもことマフラーの中にうずめた。
手はもちろんポケットに入れて。
そのまま、家まで2〜3分の道のりを縮こまって歩く。
くひー、さぶ…。


自分ちの隣の家…要はあいつの家の2階を見ると、部屋に明かりがついていた。
カーテンが光を吸収して、やわらかいきいろ。
夜にあの明かりを見ると、昔っからほっとする。

あぁ、いるなぁって。

あの部屋のヌシには、いっつも怒られるんだけどね。そりゃもうこっぴどく。
こないだなんて、雷と音と一緒に「黒焦げにしてやる!」って言われて。
オレ半泣きだった。
ほんとに、何もかんもが怖かった。
思わずごめんなさいって土下座した。


なんだけど、大体怒ってるのってオレのタメ。


そう思うとちょっとうれしい(エヘ


ちっちゃいころから、いっつも一緒にいて。
大体いっつも引っ張ってくれんのはあっちだ。
たまーにオレも引っ張るけど(そうであってほしい
文句言いながらも、それって心配してくれてる証拠。

いっつも「もう知らない!」とか言いながら、最後には助けてくれるし。
弱ってると、さりげなーく手を伸ばしてくれるし。
オレが好きなものあったら、普段ぶつぶつ言ってるのに持ってきてくれたりする。


口ではぶっきらぼうなんだけど、やっぱ優しいんだ。


ポケットの中で、ぬくぬくしてた手を引っ張り出す。
気温差に手が震えるけど、人差し指でぽちっとインターホンを押した。


おねがい、早く出て。さぶくてたまんない。


『はい。あら、コタロー君!鍵開いてるからどーぞぉ☆』
「はーい。」


あいつのママさんの声。
今日はいるんだ、メズラシー。
ママさんの声がすると、何かカメラにへらっと笑ってしまう。
カメラついたの最近だから、インターホンの前はちょっとキンチョー。
あっちからだけ見えてるってのが…なんか、ね?
でもママさん、オレだってわかるとすぐお家上げてくれるからスキ♪
門を入って、玄関の扉を開ける。


でもさ…鍵開いてるって結構無用心でない?


「いらっしゃいコタローくん。もう、久しぶりっ!」
「お久しぶりです」
「ちょっと待ってね。咲ー、コタローくんよぉぉ。」


その声に答えるように、2階で戸が開く音がした。
トントンと軽い足音。
階段を途中まで下りてきて、あいつは立ち止まった。


「よ。」
「…はぁ?」



オレの顔見るなり「はぁ?」はないと思う。
しかもそんな、警戒心いっぱいな顔しなくてもいいと思う。


「…また課題?」
「うんにゃ。」
「…まぁいいや、部屋来る?」
「ん。」


おじゃましますと靴を脱いで、のそのそとあがりこむ。
階段を上って、2つめの扉がサクの部屋。

中に入ると、いっつもふんわりした、いい匂いがする。
シンプルな、でも、居心地良くてスキな部屋。

扉を閉めて、マフラー外してコート脱いで。
ストンって座ったら「課題じゃないならどうしたの?」って聞かれた。
最近課題以外で来てなかったからなぁ。
あはは。無理ないか。


「これをね、渡しにきたんだ。」


がさごそ袋をあさって、さっき買ったミルクティーとチョコレートと、のどあめを出した。


「は?」
「サクにね、あげようと思って。」
「…ありがと…」


目を真ん丸くして、目の前のものを見てる。
そんなに驚くことなのかなぁ?


「コタロー。」
「んー?」
「ミルクティーとチョコレートはあたしの好きなもんだけど…何でのどあめ?」
「サク、今日ガッコで見たらセキしてたから。ちょっと痛そうだった。りんご味イヤ?」
「ううん…」


何か呆然としてる。

…何?

もしかして、りんごは今食べたくない気分だったのかなと思って、ちょっと焦る。
たまにサクは変なとここだわるから。


だけど、のどあめをじっと見た後、ちょっと苦笑いみたいな顔をしてから、サクはこっちを向いて笑った。


「ありがと。実は今買いに行こうかと思ってたんだ。」


それを聞いたら、大丈夫かなってもやもやしたものがパッと晴れた。
のどあめ口に入れて、すーっとしたみたいに。


「コタロー、何気に欲しいもの持ってきてくれるね。」


そう言われたら、なんかむちゃくちゃ嬉しくなったんだ。
手の中にあるコーヒーみたいに、あったかい。
ちょっとした幸せだ。





どして結構買っちゃうのかな、って思うんだけど


たまに自分のものより、いっぱい買っちゃうけど


やっぱりそんなこと以上に、オレが幸せになるときがあるからかもしんない。






「あ。」


サクがチョコの包装を開けたら、変な声を出した。
何か変わったもんでも入ってたのかな?


きょとんとしてたら、顔をあげてサクは俺の目を見ながら言った。





「チョコ、溶けてる。」





あちゃー…。






困ったオレを見て、サクが笑った。









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025:のどあめ