ソファーに座って本を読んでいると、小さな足が階段を下りてくる音がした。

 階段のほうを見てみれば、途方にくれた顔の小さなかわいい妹。


「どうしたんだい、ジニー?」


 そう問い掛ければ、髪が上手く結べないのと答えが返ってくる。
 それだけで途方に暮れてしまうのだから、小さくてもやはり女の子ということか。
 ウィーズリー家の長男は一番末の妹を見て、小さく笑った。


「笑うなんてひどいわ、ビル」
「ごめんごめん。おいでジニー、お詫びに僕がやってあげる」


 ビルが微笑んで手招きをすれば、途端に頬を僅かに染めてニッコリと笑う。
 跳ねるように長兄の側へとやってきて、彼女はソファーの前にぺたんと座りこむ。
 後姿がうきうきとしているのがまた可愛らしい。
 杖を取って呼び寄せ呪文で必要なものを揃えると、ビルは彼女の髪に櫛を入れた。
 家族お揃いの、燃えるような赤毛を上で束ねてアップにしてやる。


「こっち向いて、ジニー」


 きれいにまとめたついでに、前髪も整えてやる。
 ニコニコと嬉しそうに笑う年の離れた妹が、やっぱりかわいかった。


「はい、完成」
「ありがとう、ビル!」
「かわいいよ、ジニー。なあ、チャーリー」
「は?」


 庭から家の中に入ってきたばかりの弟に喋りかけると、弟はきょとんとした顔でビルの顔を凝視した。
 弟の顔が面白かったらしく、ビルがクスクスと笑っている。
 それが更にチャーリーの混乱を招く。


「ビルに結んでもらったの」


 ほら、とジニーが後ろを向いてチャーリーに整えた髪を見せる。
 長兄に笑いかけられて、次兄は事態を了解したらしい。


「似合うよ、ジニー」


 ニッカリ笑ってチャーリーがそう言うと、ジニーは頬を赤くして笑う。
 ビルが母親に見せてくることを薦めると、彼女は庭のほうへと走っていった。


「ウチのお姫様はやっぱりかわいいねえ」
「それよりビルが女の子の髪を結べるのに驚いたよ」
「慣れだよ、慣れ」


 自分の髪を指して笑えば、次兄が意味深げに笑った。
 ビルはなんとなしに嫌な予感を覚える。


「何?チャーリー」
「さっきママが、ビルの髪は長いわってぼやいてた」
「あー…」


 嘆息して、ソファーにもたれ天井を見上げる。
 母親はこの長い髪が気に入らないらしい。
 もうそろそろ「切ったら?」と言ってくるに違いないだろう。


「ママのことだから、切らせてって言うかもなあ」


 そうぼやく兄の顔を見て、チャーリーが双子と同じようにニシシと笑う。
 ルーマニアで仕事をしだしたチャーリー。
 確かに大人になったのだけれど、さすが自分の兄弟。
 楽しめるところは放っておかないというわけか。


「ま、その辺に関しては、休暇中の少しの辛抱さ」
「健闘を祈るよ、ビル」
「thanks、チャーリー。エジプトに帰る前に切られないように気をつけるさ」



 苦笑いする長兄に、次兄は飛び切りの笑顔を返した。



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036:きょうだい