全て壊して



全て消して



狂っていく時間が、掻き回す








ねえ、戻るものなら戻してみてよ















T h e   C l o c k   s t r u c k   a   h u r t

















手の中でぐしゃりと無残に丸められた紙。

自分に宛てられた手紙だったが、どうでもいい。意味も無い。


それは逢瀬の誘い。


内容を思い出すと、苛苛してくる。

取り留めない苛立ちが溢れて来て、舌打ちをした。

静かな部屋に意外なほど大きく響く。


忌わしい。


知りたくない言葉たちの群れ。



今更会ってどうなるものでもない。

どうにかされるわけでもない。



いつからか自分の中にある時計の針は、時を乱しきっていて、正確には測れない。

当の昔に狂ってしまった時間。

留まるものも留めるものも無い。


際限なく募るのは、底なしの痛み。



― どこまでオレを狂わせたら気がすむ




もしこの場で誰かの救いの手が差し伸べられようとも。

そんな『救い』なんてもので、縛られた結び目は解けない。

ああ、寧ろそれすら全てぶち壊してしまえ。



時計の針が空気を裂く。

その音がやけに耳につく。



とうに自分の時間は壊れてしまった。


正確な時を刻むその針に、苛立ちを覚えていく。


掻き回して、掻き乱して。


自分自身が狂った時の中で叫んでいる。


何かが自分を呼んでいる。


それは酷く頭の中を侵食して。




ああ


全て壊せ



全て消してしまえ



尚も狂い続ける時間が、見えない手で己を掻き回す



もう壊れてしまったのだから、いっそ粉々に破壊して






― 戻せるものなら戻してみろよ






どうにかできるというのなら、この時間さえ戻して見せろと






― 神のように、奇跡を起してみせろ







やり場の無い苛立ちを、右手にこめて紙ごと振り下ろす。










静かな部屋の中で、心臓の音と針の音が規則的に時を刻む







嗚呼、そうだ










狂ったのは















己の心の時間だけ

















文字書きさんに100のお題
053:壊れた時計