ふと何かが





自分に囁いたような気がした。



















       
                     
       














カンカンカンと耳を穿つような音が鳴り響く。

金属的な、大きな音。

目の前に境界線が下りる。

キラキラとした目の前。

辺りは全て黄金色に染まって。

点滅する紅さえ押され気味に見える。

見渡してみても、不思議と周りには誰もいない。

この世界は自分たった一人じゃあるまいかという不安が、胸の奥に生まれた。



カンカンカンカンカンカンカンカン



頭の中に直に届くその音は、まるで自分の中で反響するみたいに。

そんな感じは、己の体の中身が空っぽと言うことを示しているかのようで。

自分の体が大きな穴そのもののようだ。

漠然と、空虚感が支配する。

不安と空虚感が、黄金色の世界に綯い交ぜになる。

そこから生まれた穴はどんどん拡大して、自分を蝕む。

ぼんやりと、踏み切りの向こう側を見た。

線路を挟んで向こうが、別の世界なんじゃないだろうかと思う。

足元を見れば伸び行く影。

己よりも存在を誇示しているような、長く長く伸び行く影。



カンカンカンカンカンカンカンカン



耳を穿つ音がする。

頭の中で段々と大きくなっていく。

僕の体の中で、ぐるぐると回っている。

風が吹く。

点滅が示すのは警告か、境界か。

足元から伸びる影が、呆然と立ち尽くしている。

夕日の紅が燃えるように毒々しい。


嫌だ、この境目が、嫌だ。

越えてしまいたいと、越えてしまえと囁くのは誰だ。

誰かが、耳元で甘く囁いている。

嗚呼、すさまじい何かが接近してくる。


そう思った刹那


その何かに影が潰れた。

嫌な感じが、背中を這う。

何がが過ぎ去り、それに伴った地響きのような音が消える。


頭に響いた音が止む。

引かれた境界が霧散する。


影が、何事も無かったかのように伸びる。

黄金色の中、呆然と立ち尽くす。


一瞬、わけがわからずに周りを見渡した。

誰かが居ると思っていたのに、誰も周りには居ない。

少しだけ上がった息のまま、線路の向こうを見た。


――誰も、いない。


先ほどまでの自分に、呆れた。

何がそんなに不安だったのか。

溜息を一つつく。

いささかバツが悪い。



境界の向こう側だったところに、右足をゆっくり踏み入れた。



黄昏時の何かに、少し唆されたんだと思いながら。











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056:踏切