「「あっはははは!」」

 通路の死角からケタタマシイ笑い声
 明らかにそれは聴きなれた二人のもの
 ひょい、と顔をその死角に出してみれば

 笑い転げる双子と、オレンジ色の塊が居た



T h e i r b o d y  a r e  F u l l  o f  M i s c h e f



― 見るんじゃなかった

 死角を覗いたときに、目の前に広がるその光景。
 事態を把握するまでに半瞬の時を要したが…
 把握したその時、オリバー・ウッドは心の底からそう思った。
 そもそも聞き覚えのある、二重の同じ声を聴いたときに気付くべきだったのだ。

 ロクなことはないと。

「これはこれはミスター・オリバー・ウッド!」
「我がグリフィンドールのクィディッチチームキャプテン!」
「こんなところでお会いするとは!」
「こんなところでお会いするとは!」
「「何たる光栄!!!!!!」」

 芝居がかった動作に物言い。
 最後の一言においては、声までハモらせて、だ。
 オリバーはその物言いや動作が、彼と同学年の双子の兄を極端に真似たものだと言われなくても気付いていた。
 ヒマさえあれば兄、パーシー・ウィーズリーの真似をしていたからだ。
 この双子…フレッド・ウィーズリーとジョージ・ウィーズリーのそばかすの一つまでそっくりの双子が。
 呆れたように二人を見やってから、斜め下、寧ろ床に近いところに視線を移す。

 オレンジ色の…ふわふわした…

「…ミセス・ノリス」

 やはり見間違いじゃなかった。
が、見間違いであって欲しいと、切実に思った。
 双子が「おお、気付いたんだね、オリバー!」とけたけた笑う。

 気付きたくなかったとも思ったけれど、もう、遅い。


 いつもは焦茶がかった長い毛を持ったネコが、今は見事なまでに全身オレンジ色に染め上げられている。
 それはもう、すばらしくヴィヴィットなオレンジに。
 いたずらをしたのは一目瞭然。
 この二人がイタズラをするのは日常茶飯事だ。
  二人にとっては毎日がハロウィンなんじゃないだろうか。

  …問題なのはこのネコ、ミセス・ノリスの飼い主、フィルチ、だ。
  この城の管理人で、性格は…陰険。
 ただ、双子はしょっちゅうフィルチにイタズラを仕掛けては、追いかけられ、それすらも楽しんでいる。
 ある意味大物だ。

― フィルチが怒り狂っても、平気だな、こいつらは

 げんなりとそう思う。

 ナァオゥ

 切なげにミセス・ノリスが泣き声をあげる。
  さすがに、いくらフィルチのネコとは言ってもこれは可哀想かもしれない。
  あぁ、と行き場の無い疲れを感じる。
  同時に、もう一度切なそうにミセス・ノリスが鳴き声を上げた。

「どうした?ミセス・ノリス」

 廊下の向こう側から聞こえてくる声。
 明らかにあの声はフィルチのものだ。
 無意識にオリバーは双子の首根っこを掴むとダッシュで走り出す。

「おっと!どうしたんだい、オリバー?」
「逃げなくたっていいじゃないか」
「「フィルチの顔を拝むっていうのもオツだろう?」」

 首をつかまれたままじゃ走りにくいという、ある意味正当な双子の抗議。
 オリバーはしっかり無視を決め込んで、引きずるように廊下を疾走する。
 やや遠くなった後ろからミセス・ノリスの鳴き声(というよりオリバーには泣き声)が聞こえ、それはその後フィルチの悲痛な叫び声にとって変わった。
 それを聞いた双子の「やったぜ兄弟!」という声を聴きながら、オリバーはミセス・ノリスの冥福を祈った。

― …死んでないけど

 そのままグリフィンドール寮まで、オリバーは二人を引きずって帰った。
 とにかく、必死に走った。
 グリフィンドール寮の入り口を潜り抜ける。
 それから双子を――ソファーに捨てた。

「扱いが悪いじゃないか、オリバー!」
「もっとソフトに扱って欲しいね!」
「「だから彼女ができないのさ」」
「うるさい」
「「フィルチくらい我々でもどうにでもなったのに」」
「僕まで巻き込むな、頼むから」
「「オリバーが勝手に巻き込まれたんじゃないか」」
「…うるさい、人間ブラッジャー」

 ご丁寧にハモりながらやや図星を突いた意見に、オリバーは詰まる。
 いっそのこと、あの場に捨ててきたって双子のことだ。上手くやったに違いない。
 わざわざこの生きた暴れ球のために、自分が走ることなんて無かったんじゃないだろうか。
 そう思うと、ちょっとだけ、空しい。

― しかもこんなにでかい二人を引きずってきたなんて

ムダ骨もいいところじゃないか。ただでさえ、自分よりもデカいのに。

さすがにグリフィンドールまでの距離を走り抜けてきたせいで、体が熱い。
ネクタイに指をかけて緩め、上のボタンを外した。

「何でオレンジなんだ?」
「「何がだい?」」
「フィルチのネコだよ。ミセス・ノリス」

 うさんくさそうな目をソファーのほうに送りながらオリバーが尋ねれば、同じ顔が同じように目を光らせ、同じようにニシシと笑う。
 合わせ鏡で見ている気分だ。
 軽く眩暈がしそうになったが、かろうじて踏みとどまった。
 ハリーの前のシーカー、ウィーズリー家次男のチャーリーの弟だといえば…弟だ。
 パーシーよりは、よほど似ている。
 長男のビルも…こんな感じだった気がする。
 そうなるとパーシーが異端なのか。どうなのか。

 そんなオリバーの心中など知るはずもなく、双子は自慢げに胸をはった。

「オレンジ色のネコが見たかったのさ!」
「いるじゃないか、身近に。ハーマイオニーのネコもオレンジがかってただろ」

 おそらくグリフィンドール1の秀才であろう、ハーマイオニー・グレンジャー。
彼女のあの問題のありそうなネコもオレンジっぽい色をしていたことを思い出す。

「おぉ、キング・オブ・クィディッチバカのオリバーが」
「人のネコの色まで覚えているなんて」
「「驚きだよ」」
「失礼だな」

 心底驚いたような顔をして、そんな風に言われるのは心外だ。
 オリバーは憮然と眉を寄せる。
 大体、双子の弟ロンと毎日のように言い争いの火種となっている、あの性格の個性的過ぎるネコを覚えるなといわれても、そっちのほうがよほど難しい。

 …あのネコは顔も、個性的だけれど。

「ハーマイオニーのネコをじっくり見せてもらえば良かったじゃないか」
「わかってないね、オリバー」
「僕らはフィルチのネコがオレンジなのが見たかったのさ」

 ああ、そうだ。こういう奴らだったよ

 オリバーががっくりと肩を落とせば、双子が「どうしたんだい?」とさも不思議そうに聴いてくる。
 お前たちのせいだ、とも言えずオリバーは軽く溜息をついた。

 確かにフィルチはいたずらされたって文句も言えないくらいイヤな奴だ。
  それはわかっているのだけれど。
  ちょっとだけ、ミセス・ノリスが気の毒だったのだ。
  フィルチじゃなくて、あのヴィヴィットな色にされてしまったミセス・ノリスが。

「君、相当疲れてるね、オリバー」
「クィディッチ以外じゃ疲れを感じるってことかい?」
「我らがキャプテン、オリバー・ウッドも」
「人の子だったってことだね!」
「「でも走っただけでそんなに疲れるなんて、修行が足りないね!」」

 オリバーの気も知らずに、双子がケタケタ笑った。

― 誰のせいで

 そう喉元まででかかった言葉を、オリバーは胃の中に無理やり飲み込んだ。





文字書きさんに100のお題
062:オレンジ色のネコ
------------------------
クィディッチをやってないときのオリバー…
人が良くってちょっぴりヘタレ希望。
でもきっとクィディッチしか頭に無かろう。
イイ奴・しかしやや鈍感・クィディッチバカ。
そんなオリバーが好きだ。
あと、赤毛一家はパースが異端(?)だと