『おじさんに似合ってるよね』

ある意味その一言は爆弾だった



- - -  D  O  G    S  T  A  R



「どう思う、リーマス」
「どう思うって?」
ハリーの背中を見送って、シリウスがボソリと漏らす。
クスクス笑いながら、リーマスがそう返せば、拗ねたような視線が飛んできた。
その視線をやんわり受け止めて、リーマスはハリーのほうに目をやった。
ハーマイオニーと言い争いをしていたロンに、真っ赤な顔で何やら力説させているが、どうやらあの二人にはいつものことのようで、ハリーの聞き方も慣れたものだ。

リーマスは床に目を向け、レパロ、と床で割れているカップに呪文をかける。
直ったカップを取り上げると、テーブルの上に置いた。
「さっきの言葉、そんなに気になるのかい?」
もう一度シリウスのほうへ視線を戻して問えば、答えはないものの、表情から「そうだ」ということがありありと伝わってくる。

『夏はシリウスおじさんの季節だね』

ニコニコと笑いながらそう言ったハリー。
それは、言葉にも笑顔にも、もう側にはない面影を存分に含んでいて。

『古代の人は、シリウスの熱と太陽の熱が合さって暑くなるって考えたんだって』

その言葉もそっくりそのまま、かつての親友に言われたままで。

「親子って、そういうものなのか?」
「さぁ?」
「言うことまで同じだったんだぞ」

そう、同じだったけれど、ただ違ったのは

“― 熱血シリウスと太陽の熱で暑いんだよ、君が熱血してるせいだったんだ!”

そうではなく

『おじさん聞いたことある?』だったのだけれど。

ハリーの記憶の中には、ジェームズの記憶はないのに。
ジェームズと同じ言葉が、その息子から紡ぎだされるなんて。

“でもシリウスに似合ってるよ”

しかも最後の最後に、また同じことを言うなんて思わなかった。

「親子って不思議だな」
「そうだね」

呆然とそういうシリウスの顔を見て、リーマスが噴き出した。

「何がそんなにおかしい?」
「君があそこまで動揺するなんて思わなかったから」

シリウスが不機嫌な声を投げかけると、逆に上機嫌なリーマスの声が投げ返される。
一瞬呆けたような顔のあと、カップを取り上げようとして落としたのだ。
あんなシリウスはそうそう見られるものでもないだろう。

リーマスの上機嫌な声の理由を悟って、シリウスが渋い顔をした。

「威力は十分だったみたいだね」
「ウルサイ」

渋い顔をしてそっぽを向けば、目線の先にはハリー。
シリウスの視線が穏やかに、柔らかくなる。
何となくそれは『父親の顔』にも見えて。
いつかのジェームズと、同じような顔つき。

ああ、こんな親友を見るのも悪くないかもしれない。

「お茶、入れなおそうか」

ああ、と少し照れくさそうな声が、返事をした。












文字書きさんに100のお題
082:プラスチック爆弾