君たちが 光があふれてやまないような そんな世界にいて欲しいんだ 近 い ・ 遠 い 未 来 を 幸 せ な 日 々 に リーマスは本をぺらりと捲った。 ホグワーツを出たのが、つい先日。 ここ数日で、大きく何かが変化した。 しかし、そんな思案中に不意に鼻歌が聞こえてくると、本から視線を横に移す。 …シリウスだ。 「シリウス、いやに機嫌がいいじゃないか」 「そうか?」 そう言いつつ、幸せそうに羽ペンを動かす様子に、リーマスはわずかに噴き出す。 十二年間のアズガバンでの虜囚生活のため、あの頃の姿はなかなか今垣間見るのも難しい。 ただ、快活な笑顔や勇敢なところ、少し幼いところは変わっていなかった。 シリウスの機嫌がいいわけは、たった一つの小さな、そして大きなこと。 「ハリーに手紙かい?」 「ああ、帰る前に届けなくちゃならないからな」 もういない2人の親友ジェームズとリリーの子、ハリー。 彼に『一緒に暮らしたい』と言われたらしく、また逃亡生活に入らなければならないものの、シリウスは目に見えてご機嫌だ。 リーマスはホグワーツで教師をしていたためもあって、ハリーに接することは多かった。 非常に賢くて、勇敢で、気高い子だ。 そして、生まれついてのトラブルメーカー。 外見はジェームズにそっくりで。 優しいところや、あのグリーンの瞳はリリーを思わせる。 ああ、あの2人の息子なんだと、何度思わされただろう。 シリウスはたった一晩…一時間しかハリーと共にいられなかったけれど、充分過ぎるほどの収穫を得たようだ。 上機嫌なシリウスの頭上では豆ふくろうがホーホーと嬉しそうに飛び回っている。 リーマスはこの小さな豆ふくろうと、親友の様子がダブってみえて、更に笑いそうになったが、喉の奥で小さく笑うだけにとどめた。 幸い、シリウスは書き終えた手紙をニコニコと眺めている。 どう見たって子どもだ。 インクが乾いたのを見計らって、羊皮紙を折りたたみ、封をし、宛名を書く。 その様子を見て、豆ふくろうが机の上に飛び降りて、興奮しながらホーホーと鳴いた。 初仕事が待ちきれないらしい。 ふくろうに封筒をくくりつけるシリウスは、笑顔でいっぱいだ。 くつくつと笑いながらリーマスは椅子から立ち上がり、窓を全開にした。 あの豆ふくろうの様子じゃ、隙間だけでは激突しかねないからだ。 「よし、ちゃんとハリーのところに届けるんだぞ…あいたたっ」 豆ふくろうは了解の意味で甘噛みしたようだが、力が入りすぎたらしい。 シリウスが手を振って痛みを表明している間に、ふくろうは開け放たれた窓からホーと高く嬉しそうに鳴いて飛び立ってしまっていた。 「あいつ、本当に大丈夫か…?」 「大丈夫さ」 窓を閉めながら、シリウスの問いにそう答えた。 振り返って親友の顔を見ると、驚くほどに穏やかな顔をしている。 「いつか…」 「ん?」 「いつかハリーと…」 「うん…」 シリウスの言いたいことが、手に取るように判った。 リーマスもふと穏やかな笑顔になって、口をつぐんだ。 しばし穏やかな沈黙がその場を支配する。 両親を失ってしまったハリーが、いつかその悲しみ以上の幸せを手にして欲しいと思う。 そして、十二年もの歳月をアズガバンの地獄で過ごしたこの親友にも。 まだいつになるか判らない。 未来は近いようで遠いかもしれない。その逆かもしれない。 それでもリーマスは願っている。 いつか…の未来が、幸せであることを。 「リーマス」 「何だい?」 シリウスが、あの頃の面影をダブらせるかのように快活に笑った。 「オマエも一緒にだぞ」 リーマスは驚きに微かに目を見開く。 断る要素なんてどこにも、ない。 答える代わりに、リーマスは親友に向けてにこりと笑った。 君たちが幸せに暮らせる日々を 幸せに笑っていられる日々を できるだけ早く手に入れられればいい 君たちが 光があふれてやまないような そんな世界にいてほしいんだ 過ごす未来が幸せな日々でありますように |