揺れて 流されて 足の届かないところまで遠く こ の 世 界 に お い て 確 か な も の は 空には細糸のような月。 細いくせに、いやに輝きを放っている。 光が水面に煌めいて、少しまぶしいと思った。 靴を脱いで、水に足をつける。 足元の砂が、ずぶり、と自分を埋めるような…沈む感覚。 長い間過ごすことの無かった、穏やかな時間。 そう思うのに、胸が酷くざわつく。 多分、これは罪悪感だ。 みすみす死なせてしまった親友たちに対しての。 束の間とは言え、そんな自分は穏やかな時間を手にしている。 きっとこの心情を親友たちが聞いたら『それに何の罪悪感を感じることがあるんだい?』と笑いながら言うのだろう。 それを解っていても、渦巻く痛み。 あまりにも多くのものを失ってしまった 月が水面に光の道を作っている。 この光の道をたどって、望んだ未来があればいいのにと。 親友が生きていて、その息子も幸せで、そんな未来が。 ありえないのに。 いっそこの水面に揺られて、流されて、足の届かないところまで遠く。 波の手と、月の涙で自分の罪を流してしまえたらいいのに。 ― ジェームズ、リリー ごめんと、言いたいのにもう側にいない。 海に膝をつく。 どうか安らかであって欲しいと、せめて向こうで笑っていてくれと。 届かない想い。 断たれた明日。 昔望んだ未来は、もう手にいれられないけれど。 それでもこれからの望む未来を。 ― 絶対に、守るから 二人の…忘れ形見。 ばしゃり、と海の中に倒れこむ。 この世界において確かなもの。 それは、今日を生きていること そして、未来を望むココロ シリウスは、わずかに浮遊する感覚の中でそっと目を閉じた。 |
やるせない10のお題 03:儚い未来を抱いて |