「ルーピン」
「ああ、いらっしゃい、セブルス」




そういうと、リーマス・J・ルーピンは穏やかな顔で微笑んだ。








- - - c a n ' t  q u i t e  s e e  h i s  t h o u g h t









青白い顔に微笑を浮べてこちらを見るリーマスに、セブルスは顔を歪めそうになる。
が、かろうじてそれを堪えて、つとめて無表情を装った。
まさかこの男がホグワーツに、しかも教師として戻ってくるなんて思うはずもなかった。


「薬だ」
「ありがとう」
「すぐ飲みたまえ」
「そうするよ」


優しく微笑んでゴブレットを受け取るリーマスを、細い目で見つめる。


大嫌いだった、グリフィンドールの目立つ3人のうちの一人。


特に嫌いな2人の内の一人、シリウス・ブラック。
彼のアズカバン脱獄とほぼ同じ時期に、リーマスが防衛術の教師としてやってきた。
それは、ある意味セブルスにとってはチャンスなのかもしれなかった。


そう、セブルスはルーピンがシリウス・ブラックを匿っているのではないかと考えている。
必ずシリウス・ブラックはホグワーツにやってくる。
その理由は ― ハリー・ポッター
仲間が疑われないホグワーツの教師の中にいるのだ。
こんないいチャンスをシリウス・ブラックが逃す手はない。


だからセブルスは決めた。
リーマスから決して小さな変化も見逃さないと。


『脱狼薬』を飲みながら、味に顔をしかめるルーピンの顔を、セブルスはじっと見つめた。


「どうしたの、セブルス?」
「…シリウス・ブラックはここに来ると思うか」
「……わからない」
「親友だったのだろう?」


声に幾分か残虐な響きがこもったが、ルーピンは表情を動かさなかった。
そうだね、と感情の読み取れない声が、ぽつりと部屋に響いた。


すう、とこちらを向いた瞳の奥に冷たい色。
怒りの色というよりも…何かに近いが、セブルスにはわからない。


― もとより、判っても仕方がないことだがな


ただ、少しだけその目の色に背筋が反応した。
認めたくはないが、それは身震いだったのかもしれない。


― 狼男の…瞳の色なのか


またルーピンはニコリと笑った。


憎しみを覚えたジェームズ・ポッターより
いけ好かないシリウス・ブラックより



この男…リーマス・ルーピンのほうが、底知れない。



穏やかな気質の中に、何かを持っている。
ただ、あの二人とは違う、何か激しいもの。深いもの。


「薬を本当にありがとう、セブルス」


心からの感謝の言葉ですら、何か違うものを感じさせて。
それはセブルスの穿った考えなのかもしれない。違うのかもしれない。
ただ、本当にわからない、この男は。


「構わん」


必要とあればまた言いたまえ…と告げてくるりと背を向ける。


― 必ず、尻尾を掴んでやる


それまでは『脱狼薬』でもなんでも作ってやろうではないか。


シリウス・ブラックも、リーマス・ルーピンも



必ず破滅に追い込んでやる









セブルスの口元に、凄惨な笑みが浮かんだ