パープレクス∧カンヴィクション




 双子の妹は、少しだけ戸惑ったように双子の兄の顔を見詰めた。
 『恋のスキ』はどこからやってくるのか?
 イキナリ部屋に押しかけた挙句に、そんな質問をされて、戸惑わない人間はいないだろう。
 でも、兄は聞いてみたくなった。ある予感があったからだ。
「好きはどこから…?」
「うん、そう」
 ベッドに座っている兄の横に、妹は座りなおす。金と黒の頭が並んだ。
 彼女はほんの少し目を伏せて、眉根を寄せて、考えている。他愛の無い質問でも、考えてから分からないとか、こうじゃないの、という双子のもう一人を、兄は密かに尊敬していた。自分じゃあ到底、そうはいかないものな。
 伏せていた目が、上げられる。睫毛の落としていた陰が、すうと消えた。うろうろと瞳を動かした後、ピントが兄に合う。
 困ったように、口を1〜2度薄く開いてどこか恐る恐る言った。
「どこからっていうより、いつから、じゃないのかな。そう言うのって」
「いつ?」
「うん。タイミングじゃないのかな」
 妹は、眉根を寄せる。兄は、じっと見つめる。
 今、フル回転でまとめているのだろう。下唇を噛んでいるのが、その証拠だ。
「その人の好い所を見た瞬間とか、話が合うってわかった瞬間とか。色々。それだけじゃないだろうけど。色々混ざったら、好きだって自覚したら、そこで始まる感じ?」
 苦心してそう言った後で、わからないけどと付け加える。少し、ソワソワして見えた。
「チィちゃんどうしたの?急に」
 好きな子でも、できた?
 途端にちょっと面白そうになる妹に、残念でしたーとニンマリ笑って見せる。妹はそんな兄を見ると苦笑して、そのまま窓の外を見た。外は、暗幕を引いたように黒い。
 スキはどこからか。難しいこと考えるね。
 反芻するように呟かれた言葉。
「自分はどうなの、好きな人、いるの?」
 気になっていることを、聞いてみる。
 妹は一瞬、かすかに目を見張った。
 夜と同じような黒い瞳が、戸惑いを隠せず揺れる。

「いないよ」

 言わないだけで、語尾に多分…とつくのだろうと直感したし、困っているのが判ったから、気付かなかったフリをして、なぁんだつまんないのとぼやいて見せた。