スティックアウト/ザ/タング


 風が、髪をなぶった。
 ばさばさ。ばさばさ。虐げられた、髪が鳴く。
 耳の中で、渦をまいた風が暴れて通り過ぎて行った。
 さむい。

「なー」

 隣を歩く相棒に、声をかける。最も相棒なんて本人に言ったら、いつからそうなったんだ、何て言われそうだけれど。
 そんな胸の内を知ってか知らずでか「おー」とだけ返事が返ってきた。
 二人は顔も見合わせずに、肩を並べて歩く。

「さむい」
「オレも寒い」
「さむいー」
「オレだって寒い」
「あっためろ、あったかくしろ、春にしてくれ」
「そーゆーことは、神様にでも言えよ」

 苦笑した声が、こちらを向いた。

― カミサマ。神様か。可愛いこというじゃん。

 そう思うけれど、口に出しては言わない。
 可愛い―なんて言ったら、きっと殴られる。いや、絶対に殴られる。
 苦笑してる顔が、憤怒に近い顔に変わるのは、最早容易に想像できることになっていた。なんせいつも、怒らせてばかりだからな。
 障らぬ何とかに祟りナシ。要するに、障らなければいいのだよ。

「カミサマ信じてる?」
「ぼちぼち」

 何だよそれ。笑うと、彼はオレが面倒な事とか説明できない現象は、神様になすり付けることにしてんだよ、と事も無げに、そしてどうでもよさそうに言った。中々、好い回答だ。

「神様を信じている人が聞いたら、バチ当たりって怒られそー」
「そーゆー時くらいしか、神様なんて生活の中で出てこねえだろ」

 その台詞に、最もだ、と笑うと、お前はどーなの、苦笑した声が続いて。

「信じてるかってこと?ノーゥウェーイ!まさか!」
 へけけ、と笑って空を見上げたから、相手が微かに訝しげな顔をしているのを見逃した。
 笑い声に混じった、微量な苦さと、蔑み。
 自分でも気付いていなかった。相手がそれを感じ取ったことすらも、気付かずに。
 多分、だからこそ、言えた。
 フンと鼻を鳴らすと、空に向かってべえと舌を出した。

「もしいるなら、お前なんか大嫌いだって言ってやるさ」