overflow

[葛藤することそれ自体に、ひたすら葛藤をしている]



 後先考えずに、あの言葉を吐き出そうと思うこと自体が、ただの傲慢でしかないんだ。
 そんなこと知ってる。気付いたときから、ずっと。ずっと。
 熱を帯びた心に、蓋をしようと必死なんだ。
 気付かなければ良かった?
 そう考えることすら無駄だ。きっと誤魔化し続けても、いつかは直面しなくちゃならない。
 しかし押さえつければつけるほど、それは堆積していって、堰を切ってしまうんじゃないのか。
 そしてまた、突きつけられる。溢れ出したら、晒してしまう。隠せなくなる。その時が、怖い。
 きっと全てが覆されるみたいに、壊れてしまう。積み上げてきたものを、驚くほどに呆気なく。
 抱えた膝に、顔を埋める。
 吐き出した息が、震えているのが判った。それは酷く震えている。まるで、怯えているように。ああ、きっと体も震えてる。
 おかしくなる前に、どうにか。そうさ、壊れてしまう前に、消してしまえ。
 無駄な試みを、必死に自分に命じる。
 心が、痛い。
 涙は、出ない。
 どうしようもなくて、笑った。
 こもった自分自身の声が、乾いているくせに、ひび割れた胸に沁みる。
 あんまりだ。そうだ、こんなのはあんまりだ。
 そう思っても、誰を責めていいのかわからない。
 涙を流してしまえば楽になるのに、涙すら出ない。
 誰か、何か、楽にして欲しい。
 呼吸を奪われるような、そんな気持ちを、どこかにやってしまってよ。

 でも判ってる。そう思うことも、消してしまえればいいのにと思うことと同じように、無駄なことくらい。

 大きすぎる、この気持ちは。
 気付かないまま明確な意思を持って、それは自分を宿主に増殖している。
 いつの間にこんなに育ったのか、増えたのか。そんなこと、知らない。
 泣きたいと思った。ただ、無性に。
 そうして、ただただ流してしまった後に、ある種の諦めと同じように、自覚してしまえばいい。
 泣いてしまえば知らないフリも、見ていないフリも、できない。なかったことには、できない。
 自分を欺くことも、できなくなるから。
 逃げ道を塞いでしまえば、きっとまた、笑える。
 まだ、涙は出ない。
 体の震えは、止まらない。
 ぎこちない動きで顔を上げて、空を見上げた。


 この想いに押し潰されそうな胸を、必死に抑えて。