やめとけ



そう言った彼の顔は、心底嫌そうだった。












M  A  I  L    O  R  D  E  R












『これを買えばあなたもきっと!』


メディア・ヴィジョンのモニターの中で動く人間。

浮べられているのはイカガワシすぎる笑顔。

紡がれるのはイカガワシすぎるキャッチフレーズ。

深夜にやっている物を売るためのCM…俗に言う『通信販売番組』というヤツだ。


「えぇ、なんでですか、サエキ隊長」


宿泊棟の一室で、何故か隊長室のメディア・ヴィジョンの前に齧りつきながら2人の青年が切なげな顔で振り向いた。
そんなイカガワシいものを部下が欲しいと言って、やめておけといわない上司が居るだろうか。


居るだろうけど。


「そんなもんで筋肉がつくか、アホ」


これを使えばすぐに腹筋が割れます、きれいな筋肉がつきます


そんなウソくさいキャッチフレーズに捕まるヤツなんか居るのかと思っていた。
今までは。
しかし目の前で自分の部下が見事に引っかかっているのを見ると、あながち無意味なCMでもないわけだなと、妙に納得する。


「でもつくかもしれないですよ」
「そうですよ、隊長」
「おまえらあんだけ訓練させられて、筋肉ついてないのか」


ベッドに片肘をついて寝転がりながら、2人を見てサエキは呆れた。
軍隊とはいっても、体を動かす部署・動かさない部署がある。
自分たちの部隊など、過酷な訓練をしてこなければまず無理なのだ。
そんなヤツらに筋肉がついていないとは、サエキは思わない。


「筋肉はついてますけど、キレイな筋肉ってよくありませんか」
「はぁ?」
「ほら、バランス悪いよりはいいじゃないですか」
「何か、おまえらは筋肉フェチと呼ばれる奴らか。マッチョマンに憧れるクチか、昔に居たとか言うボディービルダーとかいう人たちになりたいんだな?」

ジト目で睨めば、二人は一斉に手と首を動かして「違いますよ」と否定にかかる。
ムキムキマッチョと呼ばれる人々は、自分の美しい(と思われる。サエキには理解できないが)筋肉を人に見せたり、鏡にうつしたりする人も居るそうだ。
別に何が悪いというわけではないが、自分の部下が顔は今のままで体が異常にマッチョなのを想像して、ヤケにサエキは気持ち悪くなった。


「佐伯隊長はいいじゃないですか」
「何がだよ」
「背ェ高いし」
「カラダつきカッコイイし」


ブツくさという部下を横目に、もう一度溜息をつく。


― こいつら夜だからテンション変になってんじゃないか?


「おまえらまだ20代入ったばっかだろ?」
「はぁ…」
「これから鍛えてけば、筋肉だってついてくるし、体だって厚くなるさ」
「ほんとですかっ?」


キラキラした目で見つめる部下二人に、こくんと頷いてみせる。


「走りこみに、腕立て・背筋・腹筋、その他諸々を毎日何年か続ければな」
「がんばりますっ」


― こいつら実はちょっとマゾじゃぁないだろうな


胸の奥に少しだけ生まれた不安には、気付かなかったフリをして押し殺した。


ついでに、自分は彼らよりもトレーニングメニューをこなしている。
が、隣の隊の女隊長が、目立った筋肉がついた様子も無く、毎日自分と同じようなメニューをこなしていることを、佐伯は思い出してしまった。


― なんであんなにほっそいんだろうなあ


自分よりは多少少なくとも、部下よりハードなメニューをこなしているだろう。
それでも細く、それでいて力持ちだ。
彼女に筋肉がついたら、自分と変わらないくらいあっても不思議ではない。


思わず顔はキレイな女隊長のままで


体がマッチョマンな姿を想像しかけて


― だぁぁぁぁ!


恐ろしい想像をムリヤリねじ伏せた。


― イヤだ、なんかすっげぇイヤだ


冷や汗が出てきたんじゃないかと思うくらい気分の悪くなった佐伯を他所に、部下二人は頑張るぞとご機嫌だ。
きゃっきゃと騒いで力こぶを出しあう部下の後ろ。
メディア・ヴィジョンが新しい品物を画面に写す。
「まあスゴイ!」と女の顔がウサンクサく笑う。





― チクショウ




なんでそんなに笑顔がウサンクサイんだ。

なんでそんなに喋りがワザとらしいんだ。

なんでそんなにオマケをつけなきゃならないんだ。

なんでそんなにカメラ目線なんだ。

大体なんで深夜にやってるんだ。



大いにヤツ当たりである。

自覚はしている。


がしかし


おぞましい想像の引き金である深夜番組に向けて





― イカガワシい通販め





佐伯は思い切りガンを飛ばした。













文字書きさんに100のお題
013:深夜番組
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深夜の通販番組の外国人の方々と
日本語の吹替は異常にイカガワシイと思う

突っ込みどころはそこじゃあないかもしれない