「――は?」
「嫁入り前の妹のパンツなんか、健全な高校生男子に見せれないでショ!オレの妹だけどやっぱ女の子だし、だからオレも最近見てないから!」

 小声で強く言い切るチハヤに圧倒されて呆然としていたが、一瞬の後ブッと意外にも大きくミナミは吹き出した。

「アハハハハハ!」

 ミナミはいつも穏やかに笑うばかりで、爆笑しているところなんて見たことが無かったからか、今度はチハヤが面食らう。
 彼にしてみたら真面目な事を言って笑われたわけだから、怒ってもいいはずなのに。
 白い肌を真っ赤にして、目には涙をためて笑う目の前の美形を目の前に、とても珍しく――チハヤは唖然とした。

「なによ、ミナミちゃん」
「だっ…てさぁ…!」

 こぼれた涙を拭いながらも、愉快そうな眼差しが雫から覗く。

「普段絶対ありえないくらいに、すっっっごい必死な顔してたもんだから…っ」
「――ちょっと!それって笑うとこなわけ!?」

 何、おっとりしたふりして、結構失礼だわこの人っ!オネエ言葉で抗議しても、返ってくるのは「ククク」という笑いを押し殺した声ばかり。
 尚笑い続けるミナミに、もう一度抗議しようと口を開きかけたとき、妹が自分の名を呼んだ。
 恨みがましい視線をミナミに向けつつ、なぁにと呑気な兄を装って―妹の前ではそんなところ見せたくないから―それに返事をする。
 開いた紙飛行機を持って歩いてくると、ユトはすとんとコンクリートの上に腰を下ろした。

「これ…」
「今日返ってきたんだよ」

 ミナミがユトの手にある紙を覗き込めば、並ぶのは数字の羅列。

「はちじゅう…ご」

 どう見ても数学の、答案だ。
 丸ばかり並んでいるが、最後の3問だけが空白なのが、妙に不自然に見えた。
 判らないから悩んで書かなかったのかといえば、そうでもないような気がする。
 書いた形跡も、何かを消した形跡も、まるで見当たらない。



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